誇り

安定した会社で事務員をしていたが「なんのために働いているのかわからない」と言って辞め、介護施設に就職した友人がいる。
しかしそこですぐに絶望した。給与や勤務内容にではない。理事長とその親族による経営方針にまったく納得がいかなかったからだ。老朽化した施設の修理をせず、必要な設備・器具の購入を渋る。何より利用者へのービスを考えていないのが腹がたつと言っていた。ちなみに経営が苦しいわけではない。理事長は地元の長者番付の常連で、銀座でブランド品を買い漁っているそうだ。
一度テレビ番組のインタビューを受けたことがあり(ファッションチェックみたいなコーナー)、成金趣味でセンスないねと言われて嬉しそうにしている映像を、16時間勤務の挙げ句の徹夜明けにスタッフルームのテレビで同僚たちと観ていたそうだ。「もう、殺意すら湧かなかった」と言っていた。その数日前に、ただでさえ少ない車イスが壊れたので買い替えの申請を上司に出したら却下され、何度言っても埒が明かないのでさらに上部へ直談判したら、変な真似は止せと怒鳴られ、車イスも買ってもらえなかったという経緯があった。
私がそれを聞いて、苦労が絶えないね、大変だね、と言ったら、友人は「大変なのは利用者さんだよ」ときっぱりと言った。
前職より給与も休暇も条件が落ち、まともな人からどんどん辞めていく職場で彼女を動かすものは、仕事に対する誇りだと思う。